るりとうわた

日常をつづる

「おくりびと」と「「納棺夫日記」

おくりびと
監督:滝田洋二郎 音楽:久石譲 脚本:小山薫堂
出演者:本木雅弘広末涼子山崎努余貴美子吉行和子笹野高史杉本哲太峰岸徹
楽団の解散で職を失ったチェロ奏者が、故郷の山形県に戻って遺体を棺に収める納棺師になり、人として成長していく姿をユーモアと多彩な人間模様を交えて描いた作品です。

本日、第八十一回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しましたね。
こういう古風な日本式儀式、なかでも日本人の死生観に関して、世界の共感を得たということは嬉しいです。
人が人を思う心や、生や死に真摯に向き合う姿勢や、真心こめた仕事というのは普遍的に感動を呼びますね。
そして暗くならずにユーモアに溢れていて、山形の移り行く景色も美しく、本木さんの納棺師の所作も綺麗で、とっても素敵な作品でした。
役者さんたちもそれは丁寧に自分の役割を演じられていて、クオリティの高い作品だと感じました。

この映画は本木雅弘さんが、青木新門さんの「納棺夫日記」に感動して、自ら持ち込んで出来た作品で、 映画は納棺夫を題材として、新たに脚本が書かれたもので、内容は同じではありません。

納棺夫日記 (文春文庫)

納棺夫日記 (文春文庫)


青木新門さん は1937年、富山県に生まれ、早稲田大学中退後、詩人や作家を目指しながら富山市内で飲食店を経営したが倒産。
奥さんにミルク代がないと言われ、新聞の求人広告をみて、冠婚葬祭会社に就職するのですが、「納棺夫」とは、著者の造語です。
その体験を綴られたのが『納棺夫日記』です。
この本では3章に分かれ、最後の3章部分が文章的には本の半分を閉めています。
”光を見た”ということが書かれ、多くの死に接する中で、宗教書を読み、親鸞歎異抄のことや科学と宗教に関しても触れ、深い考えに入っていく過程が書かれています。
本では富山の美しい立山連峰や厳しい冬の日本海側の描写が書かれていました。
これはこれで、素敵な作品でしたが、今回の映画では一切の宗教色を抜いたという点で、私は大成功に繋がったのだと思います。
本木さんは、映画でも、青木さんの原作本を紹介したい(タイトルロールに名前を出す)と直接交渉されたそうですが、青木さんが、この本の大事な宗教部分が抜けているということで、お断りになったそうです。


本日、ちょうどアカデミー賞の中継を見ていましたら、ミヤネ屋で、青木新門さんが直接電話に出ておられました。
そのお話では、本木さんからこの本のことで直接お電話があったのは15年前だそうです。
青木さんも本木さんがまだ27歳の若さの時でしたと感心されていました。
その時、本木さんがインドへ行って、「虫が光って見えた」そうで、それでこの本の言葉「光を見た」を使ってもいいかというお話だったそうです。
その4〜5年後から、本木さんが、この本を映画にしたいとずっと骨をおられたそうですが、内容が暗いということで実現が難しかったそうです。
本木さんの印象を「めずらしいぐらい真面目で、誠実な方」と話されていました。
授賞式へ行く前にも電話があったそうです。
また本木さんが納棺師の助手となって実際に死者に接しておられたことも明かされていました。
青木さん自身、この授賞はとても嬉しいと語られ、本木さんは映画の中の役だけでなく、人の心を繋いでこられたのだと実感しました。