るりとうわた

日常をつづる

「シレンとラギ」(ネタバレあり)


昨日新感線の舞台を青山劇場で観てきました。
新作の「シレンとラギ」で、藤原竜也×永作博美 初共演ダブル主演です。

いわゆる「いのうえ歌舞伎」と言われるもので、大音響でかかるロック音楽ヘビメタとともに繰り広げられる、時代活劇です。
日本でいう南北朝を匂わせる時代を舞台に、長い年月を掛けた2つの王国の陰謀と因果に翻弄されるシレンとラギ、さらに2人を取り囲む人々の愛憎が入り組んだ深い人間ドラマを描いています。
劇画チックなセリフ回しや照明との効果もあり、若い観客も多く、エネルギッシュな雰囲気があふれます。

[作] 中島かずき[演出] いのうえひでのり

[出演] 藤原竜也 永作博美高橋克実古田新太三宅弘城北村有起哉石橋杏奈橋本じゅん/ 高田聖子/ 粟根まこと

[ストーリー]
その頃、その国には2つの王朝があった。北の王国・通称"幕府"は若く愚かなギセン将軍(三宅弘城)を王とするが、実質的に牛耳っているのはモロナオ執権(栗根まこと)。王宮の警備には侍所【さむらいどころ】のキョウゴク官僚(古田新太)とその部下で若くして守護頭【しゅごのかみ】を務める息子ラギ(藤原竜也)があたっていた。先代の王の十三回忌の日。王宮に忍び込んだ敵国の刺客を仕留めたのは、闇の任務を司る狼蘭部隊の中でも腕が立つ毒使いシレン永作博美)。キョウゴクに呼び戻され北の王国に戻ってきたシレンは20年前に敵国・南の王国でかつての独裁者・ゴダイ大師(高橋克実)を自然死と見せかけて暗殺し、その武勇伝が伝説となっていた。
しかし、ゴダイが生きていたという事実に再びシレンはラギと南の王国へと向かう。呼び戻されたシレンの任務は、20年ぶりに仮死状態から目覚めた南の国王の暗殺だったのだ。かつての暗殺から20年の月日が流れ、一時は衰退していた南の王国は、ゴダイが目覚めたことにより勢いを盛り返していた。シレンと、その従者として潜入したラギ。シレンは、かつて国王の愛妾として南の宮廷にいた頃を知るゴダイの正妻モンレイ(高田聖子)と、幹部シンデン(北村有起哉)に迎え入れられる。そこで2人が目にしたのは20年前の独裁者の面影は一切ない、赤子のようになってしまったゴダイだった。
その頃北の王国では、キョウゴクと娘のミサギ(石橋杏奈)がモロナオによって謀反の罪をでっち上げられ窮地に立たされていた。そこへ南の王国一の武闘派ダイナン(橋本じゅん)が現れ、命を救われる。キョウゴクはダイナンからゴダイとモロナオを倒し、北と南を1つにしようという提案を受ける。一方、暗殺行の中、シレンとラギは次第に惹かれあう。しかし、この恋が2つの王国の運命を大きく動かすことになる….。

このストーリーが大体1部の内容です。
ラギとミサギの父親のキョウゴク(古田新太)がこんなおとなしい役でいいのか、と思っていると、ここ2部からどんでん返しがはじまります。
南の国の武将ダイナン(橋本じゅん)が友人以上の思いでキョウゴクに二人の子(国)を作ろうとの呼びかけに、ここは新感線のお笑いをたっぷり入れながらです(笑)。
シレンとラギはゴダイを暗殺という共同使命の過程で、惹かれ合い関係をもつのですが、もうシレンには人を殺させたくないとしてラギは自分の太刀でゴダイを切りつけるのです。
が、その時幹部シンデンは、ゴダイと愛妾(殺す使命のため)だったシレンの間にできた子はすぐに取り上げられ殺されたとされていたのが、実はキョウゴクに育てられたラギだと告白します。
ゴダイは進んでラギに殺されようとし、次の世を息子ラギにロクダイとして南の国を治めることを言い残します。

また出てきました、父を殺し母とは近親相姦のギリシャ悲劇のオイディップス王と同じです。
シレンも殺されたのかその姿が消え、絶望の淵に立たされたラギ=ロクダイは「アイは殺しアイすること、その血のあとに道はできる」と唱え、教祖のようになります。
これまで兄ラギが大好きで妹と思っていたミサギも進んで信奉者となりロクダイのそばにつきます。

可愛い娘まで離れて行ったキョウゴクは、二人の国でなく自分の国を作ると友人ダイナンを殺し、南の国に毒をまき散らしました。
ラギもミサギも人々も倒れ、全てが終わりか・・・・というところで、
これまで捕らわれていたシレンが抜け出して駆けつけ、ラギに「私たちにはまだできることがある」と言います。

毒に耐性をつけてきた自分たちの血で人々を救うことが出来る、親子に流れている血(解毒させる効果がある)は同じだと。
そこで、ラギはシレンに聞きます「それは女としてか、それとも母として言っているのか?」と。
シレンは振り返り大きな声で「人として!」と答え笑顔を送ります。
二人は人々を救いに行きます。[THE END]

高橋克実の民衆を洗脳するところなど迫力があって凄いです、また、永作博美さんもうまいですね、引き込まれます。
蜷川舞台でも、野田舞台でも出会う藤原竜也さんですが、使える役者さんですね、でもオイディップス王そのものの役も観ましたが、こういう役が多い気がします。(笑)、

現代社会を色々と風刺していて、比喩や皮肉もあって面白かったです。
たとえば北の王国の若く愚かなギセン将軍は母の言いなりで政治もわからないし、剣も使えないし、でも虫ヲタクで、大事な虫の標本を壊された時には激高し、馬鹿力で相手を 叩きのめしてしまう。
それを利用され、虫のためなら母親も殺してしまい、 あとになって何故?と気づいたり、現代人を風刺しています。

またこれまでの舞台ではただただ憎しみの連鎖で皆殺しになってしまうことが多かったのですが、生きるという方向に変わったと感じました。

捕らわれていたシレンが逃げる時に、ゴダイの正妻モンレイが人質がいなくなるとわたしたちの生きる手がなくなる、と言った時にシレンが毒を手渡すのですが、それが毒ではなかったこと、死ぬつもりだった二人は食べよう、生きようと生きる道を選びます。

「3・11後、言うべきことを持って芝居をやる意識が生まれた」「詰め込み過ぎかもしれないが、劇団の完成した世界を崩し、新しい物語を立ち上げたい、との志がある」「絶望のどん底にある人が、人を浄化することで生きる道を見つける。それが救いだと思う。」

と演出のいのうえひでのり氏は言われたそうです。

芝居はこうしてその時代の社会を反映してきたのだと、久々に新作に出会えて、そう感じることが出来ました。